1998年しし座流星群の大出現はあるのか

 (1)流星体の分布を仮定した推測

 確実な予測ははっきり言って不可能です。というのは、母彗星の軌道は正確に求められますが、流星になる塵がどのように分布しているのかは解らないからです。もし塵が彗星の軌道上にじっとしていれば正確な予測が可能なのですが、実際には太陽の熱や惑星の重力の影響で塵は彗星の軌道から離れてしまいます。そして塵がどのように分散しているかも観測の方法がないので知る事ができません。過去の統計と理論上での仮定から予測するしかないのです。

 母彗星の周囲の塵の分布に関する1つの仮定を紹介します。母彗星の周囲に散らばった塵の1つ1つの粒も固有の軌道に乗っている訳ですから、母彗星の軌道よりも内側の軌道にに乗っている塵は母彗星よりも早く進み、逆に外側の軌道に乗っている塵は遅れるはずです。陸上競技で外側のトラックと内側のトラックを走るのと同じことです。この理論で行くと遠日点では太陽の影響がないので、単純に軌道内側の塵が前出て、軌道外側の塵が後方へ遅れ第1図aの様な分布になるはずです。しかし近日点付近では太陽風の影響を受け塵全体が外へ押し出され軌道内側の塵も軌道外側へ出て母彗星よりも遅れ始めるでしょう。次第に第1図bのような分布になってくると推測されます。この塵の分布図が正しければ、地球が彗星の軌道の外側を通った時、そして特に地球が彗星が通った直後に通過する時に流星雨の出現率が高いはずです。

 
第1図 a

 
第1図 b

 

 

 (2)過去の統計からの予測 

 過去の統計ではどうなっているのでしょうか。第2図は、彗星軌道と地球軌道の関係、地球と彗星の通過時間の関係からの出現年をプロットしたものです。沛ロ限が軌道の外側で彗星の前方、象限が軌道の外側で彗星の後方、。象限がが軌道の内側で彗星の後方、「象限が軌道の内側で彗星の前方で地球が通過した時を表します。図の通り出現が多いのは氓ニの象限です。つまり地球が彗星の軌道の外側を通過したときで、特に彗星の通った後で地球が通過した時が多く出現しています。第1図bの仮定通りです。といっても観測された訳ではなくあくまでも仮定であり本当はどのように分布しているのかわかりません。ただし、少なくとも塵は彗星軌道の外側の彗星後方に多くあるようです。そして、1998年は地球はこの最も多く出現している彗星軌道の外側の彗星後方、第2図象限の条件で彗星の軌道を通過するのです。1833年の大出現の時よりも彗星の軌道から離れてますが、彗星と地球の通過時間の関係は非常によく似ています。多くの学者が1998年の流星雨出現の可能性は高いと見ています。

第2図

http://www.skypub.com/meteors/leonids98_preview.html

 

 

日本でしし座流星雨が見えるのか

(1)午前5時なら日本が最適地

 第3図は、地球が彗星の軌道を通過する時刻にしし座流星群の輻射点から地球を見た様子です。日本が夜の地域にあり、ほぼ真正面に見えます。もし、しし座流星雨が地球の彗星軌道通過時刻(1998年11月18日午前5時頃)に計算通りに出現したとしたら、日本はしし座流星雨の最適観測地です。ただし図でもわかるように日本は日の出がすぐそこに迫っている事に注意して下さい。

 

 第3図  1998年11月18日午前4時40分に輻射点から見た地球

(P.Jenniskens & J. Walker)http://www-space.arc.nasa.gov/~leonid/1998.html

(2)輻射点が登る時刻と日の出時刻を考慮すると中国北東部が有利

 しし座流星雨の出現時刻のずれや継続時間と日の出時刻などを考慮して、世界各地での流星雨が見える確率を示したのが第4図です。日本は、暗夜領域ぎりぎり東にある為に中国東部よりも確率がかなり低くなっています。これに緯度の違いによる輻射点が登る時刻と薄明開始までの時刻を加えると第5図の確率分布図になります。中国北東部が観測最適地になります。これは緯度の関係で、この地方はしし座流星群の輻射点が日本の東北地方と同じくらい早くから登り始めるのに、日の出の方はずいぶん遅くなるという傾向を示すからです。中国北東部は流星雨を観測できる時間的余裕が十分あるのです。日本では出現が早まるのは問題ないのですが、遅れる分には日の出までの余裕がありません。

    第4図

  http://www.imo.net/news/leohints.html

    第5図

   

 http://www.imo.net/news/leohints.html

    

 

 観測には日本の何処が有利か

 (1) 輻射点の高度と薄明開始時刻による評価

 日本全国が晴れ渡っていたとして何処が観測に有利かと考える場合、輻射点の高度と薄明開始時刻の兼ね合いになってきます。第6図は11月18日のしし座流星群輻射点の時間ごとの高度と薄明開始時刻、日の出時刻を示しています。暗夜時間は出現予想時刻から薄明が開始するまでの時間で、つまり暗夜で流星を観測できる時間です。出現が予想よりも早まるとすれば、なるべく輻射点が早く登る東日本が有利ですが、遅くなると薄明開始時刻までに余裕のある西日本が有利です。伊豆大島と台湾での観測ツアーが企画されているようですが、表が示すように両観測地の輻射点の高度と薄明開始時刻の条件は両極端です。輻射点の高度を取るか薄明開始時刻までの観測時間猶予を取るか1つの賭けになるでしょう。どちらの条件もそこそこ満たすのは九州北部の離島の、五島や対馬という事になります。各地で観望ツアーが企画されているようですのでそちらのデータも掲載しておきます。

 第6図 18日の30分おきの輻射点高度と日の出の影響

JST/LOC

00:00

00:30

01:00

01:30

02:00

02:30

03:00

03:30

04:00

04:30

05:00

05:30

06:00

薄明開始

日の出

暗夜時間*

札幌

17

22

28

33

39

44

49

54

59

63

66

68

68

05:15

06:30

15m

新潟

14

19

25

31

36

42

48

53

59

64

68

71

72

05:18

06:26

18m

仙台

12

18

24

30

36

42

47

53

59

64

69

72

74

05:21

06:20

21m

東京

13

19

24

30

37

43

49

55

61

66

71

75

76

05:12

06:19

12m

金沢

11

17

23

29

35

41

47

53

59

65

70

74

76

05:36

06:33

36m

名古屋

10

16

22

28

34

47

47

53

59

65

70

74

77

05:24

06:29

24m

大阪

9

15

21

27

33

45

45

52

58

64

69

74

77

05:30

06:34

30m

広島

7

13

19

25

31

43

43

50

56

62

68

73

77

05:42

06:45

42m

福岡

5

11

17

23

29

42

42

48

54

61

67

72

77

05:51

06:52

51m

那覇

--

4

10

17

23

36

36

43

50

56

63

70

76

05:48

06:49

48m

福江

--

7

13

19

25

32

38

45

52

58

65

72

75

05:54

06:57

54m

対馬

3

9

15

21

27

33

39

46

52

58

64

70

74

05:57

06:58

57m

伊豆大島

10

17

23

30

35

41

48

54

60

66

71

75

77

05:11

06:18

11m

御殿場

10

16

22

28

34

40

47

53

59

65

70

74

76

05:27

06:25

27m

霧島

4

9

15

22

28

35

41

47

53

60

66

72

77

05:45

06:47

45m

台湾

--

--

5

12

18

24

31

38

45

52

59

65

73

06:12

07:10

1h12m

中国北東部

14

19

23

29

33

38

43

46

51

55

58

59

61

05:57

07:09

57m
*暗夜時間は05:00に出現が始まった場合、暗夜で観測できる時間を示しています。 資料:Starry Night によるシュミレートと海上保安庁水路部発表データ

 

(2)ロケーションによる評価

 どんなに空が暗い観測地でも東側に高い山がそびえていたのでは不適です。輻射点が登る前に出現が始る可能性もありますので、できるだけ東側が開けている観測地を選んで下さい。第7図に各地の輻射点が登る方位と時刻を示します。下見に出かけた時はこの方向が開けているかを確認して下さい。また撮影装置は予めこの方向に向けて置くとよいでしょう。

 第7図 各地の輻射点が登る方位

LOC

輻射点が登る方位(度)

輻射点が登る時刻 (JST)

札幌

60

17日 22:39

新潟

62

17日 23:03

仙台

62

17日 22:54

東京

61

17日 23:06

金沢

63

17日 23:18

名古屋

62

17日 23:15

大阪

62

17日 23:21

広島

63

17日 23:46

福岡

63

17日 23:45

那覇

65

18日 00:12

福江

62

17日 22:54

対馬

62

17日 22:48

伊豆大島

63

17日 22:09

御殿場

62

17日 22:12

霧島

64

17日 22:48

台湾

65

18日 00:45

中国東北部

53

17日 23:21

 

(3)気象状況による評価

 上で述べた事は何処でも晴れているという事が前提になっています。本当は晴れる事が流星雨を見るための最大の条件かもしれません。その時何処が晴れるかは、その日近くになってからの気象情報で予測するしかありませんが、それでも何かの参考になるかもしれませんので、各地の11月17日と18日の過去13年間の天気記録を第7図に示します。

 第8図 過去13年間の11月17・18日の各地の天気記録

YY/MM

85/11

86/11

87/11

88/11

89/11

90/11

91/11

92/11

93/11

94/11

95/11

96/11

97/11

晴率

DD

18

18

18

17

18

17

18

17

18

17

18

17

18

17

18

17

18

17

18

17

18

17

18

札幌

35

仙台

48

新潟

13

金沢

43

東京

57

名古屋

65

大阪

65

松江

35

広島

61

高知

61

福岡

61

那覇

48
 資料:気象年間1996〜1998年版(気象庁発行)